原皮と衣料革

通常、「かわ」という場合、皮革(ひかく)と書かれるが、この語源は皮革業界の間ではつぎのように解釈されている。

[皮 Hide or Skin]

動物を皮と肉とに分けた際、はぎとったままの状態のもの、つまり脱毛もしていないものを指しており、これを原皮 げんぴ)と称する。この原皮を腐らぬように塩漬けにしたり、または太陽にさらし干しにしたりして保存し、輸送する。前者を「塩生原皮(しおなまげんぴ)」、後者を「干皮(かんぴ)」と呼んでいる。

[革 Leather]

皮を腐らぬように「鞣し」たもので、製品化できる状態に仕上げたものをいう。

皮や革は大昔から日常生活に取り入れられて来たが、昔の皮革は「鞣し」そのものも原始的であり、革よりむしろ皮に近い状態であった。近代の製革技術の発達にともなって、革とーロにいってもその用途によって、あらゆる種類の製法が用いられ、衣料用革の中だけでも、白バイの巡査が身体保護と防寒を兼ねて着る丈夫な、ジャンパー用皮革、オー ト・レーサーが着るやや薄くて柔らかい「表革 (おもてがわ)」、またファッション ・ レザー ・ウェアのための、ソフトレザーといわれるものまで非常に多くの種類がある。これらがそれぞれの動物の種類と特徴を生かしたものに分類され、さらにそれぞれの用途に応じた「鞣し」や「染色」によって、あらゆるフィーリングでつくられるものである。

主な原皮の種類

服飾用に向く原皮の種類(数字は消費量の順位)
①成牛皮 ②豚皮 ③羊皮 ④仔羊皮 ⑤中牛皮 ⑥鹿皮⑦馬皮⑧蛇皮

そのほかにも珍獣を用いることがあるが、最も市場において目につくのは、牛、羊、豚の三種類である。

これらの原皮の取引は、おおむね重量で計算されて売買され、これは鞣してからは面積で計算されて取引されるのが普通である。面積については、欧米ではスクエア・フィート(30.48cm×30.48cm)を単位とし、日本では1デシ(10cm×10cm)を単位として取引される。

相場の面からみると、繊維素材もシー ズン初めが値の良いように、原皮も夏物は比較的値が弱く、秋から冬にかけての原皮は強気といえる。いずれの場合にもいえる共通の条件は、柔軟な革になること、外観と感触が良いこと、需要をまかなうだけ入手出来ることである。

[成牛皮 Cattle hide(キャトル・ハイド)]

日本で消費される皮革製品のほとんとが牛皮といわれるほど、その需要はあらゆる製品におよんでいる。

衣料用として用いられる場合、防寒用、作業用、あるいはラフなレザーウェアに適している。一ロに牛皮といっても、牛の成長年令により区別され、この場合、生後1年半から2年ぐらいのものをいう。

洋生と地生

産地は、輸入の場合、「北米」から入る「洋生(ようなま)」と、同内産の「地生(じなま)」とがある。

日本の牛皮の消費量の内、80%が北米から輸入され、その残り20%が国産か他の国からの輪入になるほどである。

国産の牛皮は、皮の肉が薄く、肌が荒れず、だいじに飼育されたものだけに質も良く、きれいなため人気もあるが、需給のバランスがとれず、価格も「洋原(輸入原皮)」に比べると安くないのが普通である。これに比べ「洋原」は輸入量も豊富で、常に需給のバランスが保てることから、ほとんどの革製品はこの「洋原」用いられる。

輪入先は上記の北米が最も多く、その他にアルゼンチン、豪州 、タイ、中国などもあるが、質の点で北米物が最も適している。このほか、フランス、ドイツ 、イタリアなどもあるが、これらはむしろ原皮よりも、鞣し、染色した革(レザー)として輸入されている。しかし、その量は少ない。

牛皮の特徴は、内地産、北米産のいずれも、成牛皮であるため使用する面積が大きく、表皮も丈夫で、ことに北米産のものは厚度もあり 、厚いものはベルトや靴底にも使われ、一方内地産は、薄くとも丈夫で美しいといえる。

いずれの原皮も、夏原皮、冬原皮と、その屠殺時季によって、厚度も繊維の密度も変わるが、飼育中に虫にさされたり、傷を負ったり、寄生虫の虫穴が皮の表面に現われたりして用いにくいことがあり、とくに衣料用にする場合、面積の大きいものを使って大きな型紙を入れるときに虫穴(ピンホール)などが避けられないこともあるため、なんといっても、厚みがあって傷の少ない冬原皮を選ぶ方が有利である。

カウとステア

生後2年以上のメス牛を「カウ」、去勢したオス牛を「ステア」という。衣料用革として使用する場合、ソフトな感触を望むには「カウ」が向くが、それ以上に丈夫さを目的とする場合には、仕上がりは「カウ」よりやや硬目だが、「ス テア」を用いることがある。

いずれにしても、成牛皮は一頭分の面積が大きいため、作業をし易くする意味で、鞣すときは頭から尻へかけて、背の中心から二等分に裁断して用い ている。これを「半裁(はんさい)物」と呼んでいる。通常の成牛皮を一頭鞣しあげた面積は450デシか600デシぐらになる。半裁革では200デシから300デシぐらいが標準である。

地生(じなま)と呼ぶ国産牛皮には傷が極めて少ないが、「洋原(ようげん)」 といわれる北米、アルゼンチン、豪州 、その他の国から輸入される牛皮には、必ずといって間違いないほど「バラ傷」「虫穴(ピンホール)」「焼印」などがよく見られるため衣料用に用いるには相当な選別が必要とされる。成牛皮は表革、裏革の両方を用いる。

同じ牛皮でも、成牛皮のほかに成長度に応じて、中牛皮(キップ ・ スキン)と仔牛皮(カーフ・ スキン)に分類される。

成長した牛が生後1年半から2年とするとそれより若いのが中牛(ちゅうぎゅう)で、これは「キップ」とも呼び、生後7 ~ 8ヶ月から1年余までのものをいう。ヨ ー ロッパでは「キップスキン」をよく用いるが、日本ではあまり用いていない。

[仔牛皮 Calf skin(カー フ ・ スキン) ]

生れてから 6~ 7ヶ月ぐらいまでを指して呼ぶが、子供牛だけに面積は60デシから100デシぐらいの小判だが、傷は極めて少なく餅肌に近いぬめぬめした感触が好まれ、衣料はもとより、靴、ハンドバッグなどの高級品に利用されている。日本に輸入されるのは、アメリカのものが最も多く、この他にヨーロッパでも「ドイツ ・ カーフ」といわれ昔から定評ある皮革が愛好家の間でも有名であり、これは南ドイツか、他の国でもアルプスの周辺から集められたものが最も良いとされている。きめが細かく、仕上りのつやも牛革の中では最も美しい高級素材である。衣料には裏面をスエードに仕上げる方が多い

[羊皮 Sheep skin(シ ープ・スキン)]

正しく分類するには余りにも種類が多く、羊の改良、産地、気侯風土のちがいで、これほど差があるかと思うくらい非常に雑多であるが、これらを総称して「シー プ」、または「ヤンピー」とも呼んでいる。

産地は世界各国にあるといっても、日本に輸入されているものは、インド、パキスタン、イラン、トルコ、アフリカ、豪州 、その他で、戦前は中国からも相当輪人されていたものである。衣料用素材として大古から用いられた歴史があり、現代においても中高級ソフト・レザーの主流である。衣料のほかに、手袋、袋物、靴の裏革 、本の革表紙、その他の小物などに用いられている。

シープ・スキンの特徴は、皮が柔らかく、軽く、薄くても比較的丈夫なことで、身体にフィットする感触は成牛皮と比べものにならないこと、表革の表面(ぎん面)に「しぼ」と称するこじわが美しく平均していることなどが挙げられる。革の面積は50デシから70デシぐらいの大きさで、大きくなるほどその外観は粗雑になり易い。

ヘアー ・シ ープとウ ール ・ シ ープ

一般に輸入されたシー プ・ スキンを国内で用いる場合、二種類の区分がある。「ヘアー ・ シープ(肉用種)」と「ウ ー ル・シープ(毛用種)」であり、前者は食肉を目的として飼育されたもの、後者は毛の採取を目的として飼育されたものである。

「ヘアー・シープ」は主にインド方面から多く輸入され、きめの細かい美しい「 しぼ立ち」と強靱さは、使いこなすほど味が良くなる。一方、「ウール・シープ」は、一見軽い、弾力のある厚味と柔らかさが特徴であるが、インドシープほどの強靱さはなく、時間とともに風合が落ちるきらいがある。ただし、これはいずれも素材としての問題であり、それぞれの特徴に適した用途に用いることで、その差は支障として起らぬほど現代の製品はよく研究されている。表革、裏革に仕上げて用いる。

[山羊皮 Goat skin(ゴー ト ・スキン)]

「山羊皮」または「ゴート・スキン」と一般に呼ばれ輸入品と国産品がある。
国産品は「地山羊((ぢやぎまたはぢさんよう)」と言われ、羊(シープ ・ スキン)に比べると幾分皮革の表面(ぎんめん)が粗く、硬目で、感触はさらっとして油気が少ないような感じに見えるが、非常に強靭である。大きさは「シープ・スキン」よりやや大きく、70〜90デシぐらいが標準。衣料の場合は主として紳士物に用いることが多い。表革が多い。

[仔山羊皮 Kid skin(キッド ・ スキン)]

昔から高級手袋や靴の甲革に用いられ、薄くて柔らかな美しい感触は「キ ッド」独特のものであるが、衣料に用いるには面積が小さ過ぎ、歩留りが悪いため、特殊なもの以外あまり用いていない

[豚皮 Pig skin(ピッグ・ スキン)]

日本が消費する皮革の大半は海外から輪入しているなかで、豚革だけはそのほとんどが国産でまかなわれている。世界の養豚順位から見れば、中国の1億8千万頭、アメリカの5千7百万頭には及びもつかない、15位の4百万頭余りではあるが、それでも日本から輸出できる皮革としては唯一のものである。かつては国内での豚革の価値は非常に低く、一時期ボール紙と同価格 で取り引きされたことすらあったが、近年、一般皮革の値上がりと、レザー・ファッションの流行につれ、海外で珍重されるピッグ・スキンにあらためてメーカーが注目しはじめ、比較的価格が安いこと、鞣し、染色技術の向上なども加わって、その需要は急激に上昇しはじめて来たものである。

用途としては通常小物雑貨類には、表皮を仕上げた「アメ豚」といわれる毛穴を生かしたものと、衣料用には裏皮を起毛仕上げした「スエード」を用いている豚のスエード仕上げは発色も美しく、中間色も可能で、安いことが衣料用素材として欠くことの出来ないものとされている。面積は90〜120デシぐらいのものが多い。

[鹿皮 Deerskin(ディア・スキン)]

衣料に用いられた鹿皮の歴史も古く、ヨーロッバ、アジアをはじめ日本でも、かつては相当量用いられた。野生がほとんどのため、小傷が多いこと、選別し無傷の素材で衣服のような大きな面積の製品に仕上げようとすると非常に高価になり、希少である。最近鹿革の需要は、手袋、自動車や眼鏡拭きなどのセーム革として、あるいはオイル・クリーナーに用いられることもである。

[馬皮 Horsehide(ホース・ハイド)]

かつては、牛皮とともに馬の皮は相当な需要もあったが、衣料に用いる国も少ない。時たま外国製品で「牛の腹仔」と同じような毛付きの仕上げか、または表革を使った希少なジャケットで見ることが出来る程度である。国産の馬革の産出はほとんどなく、牛革が豊富に供給出来ることで、あえて少量の原皮を手当する必要のないこと、またアルゼンチンやポーランド、イタリアなどから輸入もされるが、放牧のため原皮の各所に「バラ傷(ひっかいた傷あと)」が多いため、衣料用としては非常に希少で高価な皮である。表面は「しぼ」がなく、独特な鈍い綺麗な光沢がある。

 

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